2019年08月22日

「紋切型社会」(武田砂鉄著、新潮文庫)

 ちょっと気分を変えて、久々の読書ネタ。「紋切型社会」(武田砂鉄著、新潮文庫)です。

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 読み進めるのに、とても骨が折れる本だった。もちろん、良い意味で。

 武田砂鉄さんは、今の時代を覆っている「それは言わない約束だよね」というぼんやりした霧を、言葉を使って切り裂こうとしている。だから、どのような言葉も、手垢のついたやり方では使わない。そういう制約を自分に課しながら、文章を書いているように見える。どの文をとっても、「自分の言いたいことは本当にこれなのか?」と何度も自問しながら書いているようだ。書かれている内容の身近さに比べて意外なほど取っつきづらい文章を読み進めているとき、次の一文に出会って、「ああ、この感覚がこの人の文を読むときのカギだな」と感じた。

言葉の迫力を感じるのは、自分に負荷をかけてきていると実感する文章に出会った時だと、それなりの本読みを自負するこちらは切に訴え始める。(「10. なるほど。わかりやすいです。」)

 やさしい(優しい and/or 易しい)言葉がもてはやされ、少しでも骨のある言葉は忌避される。武田さんは、その風潮に抵抗している。抵抗しても、編集者から返ってくるのはこんなリアクションだ。

批評性が比較的強い原稿を出した際に、「面白いんですが、この原稿を読んで、誰がハッピーになるのですか?」と問われたことがある。メールで送られた文面を見ながら目を疑った次に相手を疑い、「原稿とは、ひとまず人をハッピーにしなければならないのでしょうか?」と返すと、「まぁでも、わざわざdisる必要はないですよね〜」と再度返されてしまう。(「20. 誰がハッピーになるのですか?」)

 こういう書き手がウェブメディアで文章を書くのは、さぞかし気苦労の多いことだろう。ウェブメディアでは、読者の反応がダイレクトに返って来やすい。でも、返ってくるのは、一読して即座に返された反応ばかりだ。中身のない「イイネ」や罵詈雑言(しかもそれこそ「紋切型」)にさらされては消耗するばかりだ。

 この本がデビュー作ということだが、武田さんはすでにあちこちのメディアでお見かけするようになっている。ぜひ、「物を考えさせる文章」を世に問い続けて、今の時代を豊かにしてほしいと思う。

posted by toshinagata at 21:32| 日記
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